2・5次元の彼女
見なければよかった。

そう後悔して、現実から逃げているのは私の方かと深いため息をついた。

彼が守るべき家族を持っているのは動かしようのない事実で。
どんなに私のことを愛してくれていたとしても
いつかは家族の元へ戻っていってしまう。

そのとき、ひとりになるのは私だ。
私だけが、ひとりぼっちで取り残されるのだ。
私の手元に残るのは、彼がくれた小さな思い出だけ。
そんな不確かなものだけで、ひとりで生きていかなきゃいけないなんて、私には無理だと思った。


それに……と私は今しがた覗き見た携帯電話に目を落とす。


今まで自分のことしか考えてこなかったけれど
私がHARUの傍にいるってことは
あの小さな女の子の幸せや、奥さんの信頼を奪うということで

もしも私とHARUの関係がバレてしまったらと考えると
1つの家族を不幸にするリスクを、私が背負い切れるとは思えなかった。


「夕莉。コーヒーで良い?」
HARUの声が聞こえる。

「……うん」
私は何事もなかったかのように、元気な声を装って、彼の元へと歩き出した。


こんなことしてちゃダメだ。
ここにいちゃダメだ。


胸の奥で警鐘が、今までよりもずっと大きな音で鳴り響いていた。


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