２・５次元の彼女
「だって、不倫相手より私のほうが、水原さんを幸せにできると思うから」

彼女がにっこりと笑って言った。その表情は自信と輝きに満ちていて、今の言葉が決してはったりではないことを感じさせる。

「私、そんな浮気性な煮え切らない女より、ずっと水原さんを大事にしますよ。
きっと幸せにしてみせます」

さらりと毒を含ませた彼女にも驚いたが、それ以上に胸に響いたのは、『幸せにしてみせます』だなんて断言されてしまったこと。
自分だったら、同じことを言えるだろうか。
ひとりの女性を、愛する人を、幸せにしてみせますと。
そう言いきれる彼女を、すごく格好良いと思った。

と、同時に、自分に対して告白されているようで気恥ずかしくなった景斗は、頬を赤らめてうつむいた。
きっと彼女は景斗自身が不倫をしていると誤解しているのだろう。

「……念のため言っておきますが、僕が不倫をしているわけではないですよ」

苦笑する景斗に、彼女は「え？　そうなんですか」と目を丸くした。
「それなら……不倫をしているのは彼女さんの方ですか……」
考えるような仕草をしながら、やがてぽつりとそう呟いた。

彼女の推理が的中し、景斗から投げやりな笑みが漏れる。
「どっちにしろ、過ぎたことなんです。今さらどうこうできる話じゃない」

最初からユウさんはHARUさんを選んでいるのだから、と景斗は自分の胸に言い聞かせた。

だって、僕が幸せにできる、できないの問題じゃない。
選んでもらえなかった僕にできることは何もない。
< 175 / 241 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop