2・5次元の彼女
「同僚の方をかばっていたんですよね?」
景斗が目を見開くと、彼女は眉を少し下げて、困った笑顔を浮かべた。

確かに、あのとき課長を怒らせる原因を作ったのは自分ではない。
同僚が連発した仕事のミス。
だが、ミスをした当人も決してやる気がなかったとか、怠けていたとか、そういう訳ではない。
ただ、運の悪いトラブルがたまたま重なって、人より不器用だった彼には、裁き切る能力がなかった、それだけのこと。
彼が一生懸命頑張っていることを知っていただけに、理由も聞かず頭ごなしに怒鳴られる姿を見てついつい不憫になってしまった。
やめておけばいいのに、自分の責任です、なんて挙手をして、彼を庇いたててしまった。

結局その後、彼は仕事を辞めてしまって、景斗の怒られ損になってしまったのだけれど。

「知っていたんですか……」
思わずぽつりと呟いた。
あの出来事の真相を知っているのは、当事者である自分と同僚だけのはずなのに。なぜ彼女が知っているのだろう。

彼女がゆっくりと口を開く。
「課長も気づいていましたよ。ああ見えて、意外と部下のことを気にしてくれていたんですね。
飲み会の席で課長が愚痴っているところを聞きました。
水原さんのことを、他人を庇うなんてしょうもないやつだ、なんて言っていたけれど……」

彼女は満足そうににっこりと微笑む。

「私、そういうのは嫌いじゃないです」

「……」

数年越しに彼女から聞かされた事実に、今さらながら気が抜けてしまった。
ただ、自分のしたことを誰かが影で見ていてくれいたのは、正直嬉しかった。
気づいてくれた課長にも、それを気にとめていてくれた、彼女にも。
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