2・5次元の彼女
「水原さん、もっと自信を持ってください。
彼女さんも気づいてくれているはずです。あなたの優しさとか、良いところ、たくさん」

彼女の言葉の意味するところが分かる。
行ってこいと言っているのだ。

好きな人が別の誰かのところへ行くのを見守るのがどれだけ辛いことか、景斗は身を持って知っていた。
それでも背中を押してくれている彼女の優しさと、こんなことを言わせてしまった自分の情けなさ。
思わず笑いが込み上げてきた。失笑とでも言うべきか。

「……ありがとうございます」

目を伏せていた景斗の表情が穏やかになったことを確認して、綾も安堵の笑みを浮かべる。

「それに。早く彼女さんとのことを終わらせてもらえないと、私の出る幕がないですからね」
彼女は悪戯な笑みでブラックジョーク溢した。
「私のお試し彼女作戦は失敗だったみたいです。
しばらく経てば昔の女性くらい、忘れてくれると思ったんですが……
水原さんはそういう人ではありませんでしたね」
コツンと握った手を額に当てて失敗のポーズをするも、言葉とは裏腹に何故だか彼女は満足そうだった。

「振られたら戻ってきてください。
私が慰めてあげますから」

柔らかい毒を含んだ言い草に景斗は「不吉だなぁ」と苦笑いを溢す。
が、「でも、ごめんなさい。そういうのはもう、やめようと思うんです」景斗は頭を下げて謝った。
「保険をかけたくないんです。
逃げ道のある状態じゃ、目の前の人に精一杯向き合えない気がして……」

「そうですか」

それはきっと彼女の聞きたい言葉ではなかったはずだ。
それでも、初めて見せた景斗の迷い無い瞳に、彼女はもう十分だとでもいうように目を閉じた。
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