2・5次元の彼女
彼女を送り届けたその足で、景斗は帰り道とは逆の路線へと乗り込んだ。
何もこんな夜更けを選ばなくてもよかったのだが、日を改めてしまったら、また余計な迷いが生まれてしまいそうで。
彼女に背中を押してもらったその足のままで向かいたかった。
接続駅で乗りついで10分程揺られたあと、電車を降りた。
家路を急ぐ人の群れに乗りながら、ちらほらと明かりを残す商店街を通り抜け、住宅街に差し掛かる。
ほどなくして辿り着いた目的の場所には、100戸ほど入りそうな巨大なマンションが聳え立っていた。
広くデザイン性の高いエントランス。このマンションのグレードの高さがうかがえる。
今まで何度か訪れているが、来る度に背筋が伸びる思いをする。
レンガ調の階段の奥。大きく重い門を開けると、自動扉の横にインターホンパネルが置いてある。
部屋番号をそのパネルへ打ち込むと、呼び出し音が鳴った。
やや間があって、インターホンからくぐもった声が響く。
『どうしたんだ、こんな時間に』
「……少し、話がしたいんだ」
何も友好的である必要がない、景斗は彼が見ているであろうカメラをじっと睨みつけた。
やがて、機械的な音と共に自動扉がゆっくりと開かれる。
『……入れば』
その言葉を最後に音声がブツッと途切れた。
もう迷うことはない。
景斗はその扉の奥へと足を踏み入れた。