2・5次元の彼女
少しだけ涙が滲んだ。

うつむいているから、横にいる景斗にはばれないだろう。
景斗は黙っていた。ただ、横に座って、黙って見守っていた。

封筒には他にも何枚か写真が入っているようだった。
私はぐずる鼻を小さくすすりながら、次の写真を取り出す。

そこには
笑顔の私。


晴れ渡る空と緑を背景に、写真の中の私は、自分でも見たこともないようなとびきりの笑顔で笑っていた。

HARUとの初めてのデート――写真を撮りにふたりで公園へ行ったときのものだ。

「HARUさんから伝言です」
静かな声で景斗が言った。
「ユウさんの写真は、全て破棄したそうです。
でも、これはあまりにも良く撮れていたから、このまま捨てて、全て無かったことにするのは、もったいないからって。
せめて、ユウさんだけが持っていてくれないか、と」

写真はそれだけではなかった。
一枚一枚めくる度に、様々な表情の私が現れる。

花に向かってカメラと格闘している私
青い空を見上げている私
靴を履きなおそうと、踵を上げて仰け反っている私

こんなところまで撮ってたんだ。
思わずふふっと笑いが零れる。


「僕も、良く取れていると思うよ。
ユウさんがとても楽しそうで……
HARUさんは、やっぱり人を映すのが上手だね」

私は頷く。
恥ずかしいな。
なんだか、私の知らない私がいるみたい。

HARUの目には、私の姿はこんな風に映っていたんだ。

どれも鮮やかで、どれも躍動感があって
まるでこの写真の中で私は、息をしているみたいに――

「――ユウさん」

景斗の声がして、我に返った。
気がつくと
封筒の上に、ぽつりぽつりと、涙のしみができていた。
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