2・5次元の彼女
ゆっくりとした足取りでHARUの部屋の前まで辿り着くと、私は震える指先でチャイムを押した。

彼はなかなか出てこない。
待たされるこの時間が、辛い。

やがてガチャリと音がして、鍵が開かれる音がした。

ゆっくりとドアが開いて
私の会いたかった人がその姿を現す。

「……HARU?」

「夕莉」

彼が私の名を読んだ。
ずっと聞きたかった、低くて懐かしい声。

どうしよう。混乱している。
目の前に、もう諦めたはずの彼がいる。

HARUは私の顔を見ると、ため息交じりの苦笑いを浮かべた。
「こんなところに来て、景斗に知られたら怒られるぞ?」

1カ月ぶりだというのに。
どうして最初に出てくる話題が景斗のことなんだろう。

他に何か言うことはないのかと、がっくりうなだれながら、私は不満気な瞳で彼を見上げた。
「どうしても、会って伝えたいことがあって……」
私が尻つぼみでうつむくのを見ると、彼はフッと吹き出し笑った。

「……バカだな」
そう呟き、私を玄関の中に引き入れる。
ドアを閉めたHARUが、私の背に腕を回した。

「なんのために景斗に伝言を頼んだと思ってんだよ」

そのままHARUは私をぎゅっと抱き寄せる。

「……顔を見たら、離れられなくなるのが目に見えてるじゃないか」

彼が耳元で囁いた。
< 214 / 241 >

この作品をシェア

pagetop