2・5次元の彼女
彼を抱きしめる手が震えて、きっとそれは彼に伝わってしまっただろう。
私の感情を受け取ると、HARUは優しい声で言った。
「俺は夕莉を幸せに出来ない」

それは、あのとき、言ってくれなかった質問の答え。

今度こそはっきりと口に出されて、もう私は何も言うことができなかった。


「俺には守らなきゃいけないものがある。
……それは、夕莉じゃないんだ。
いい加減、責任から逃げ続ける訳にはいかない」

それはずっと現実から逃げ続けてきたHARUの決意。

そうか。
覚悟を決めたんだ。

それならば、私ひとりが我が儘を言い続ける訳にはいかない。
彼のお荷物にはなりたくない。
笑顔で彼の背中を押す、そんな存在であり続けたい。

私も覚悟を決めなきゃならない。

ずるずると欲望に引きずられる日々を
一瞬の快楽ばかり追い続ける日々を
卒業しなきゃならない。

気持ちは割り切れていない。
それでも、自分がどうすべきかは分かる。

「わかった」
そう言うと、悔し紛れに彼をぎゅっと抱きしめた。

それに答えるかのように、HARUも私を抱きしめる腕に力を込める。
「夕莉……!」
HARUの声が切なく掠れていた。

なんて声を出すんだ。
余計に愛おしくなってしまう。
< 216 / 241 >

この作品をシェア

pagetop