幸せそうな顔をみせて【完】
「副島。葵ちゃんは別にお前のじゃないだろ。まあ、葵ちゃんと仲がいいから構いたくなる気持ちも分かるけど、葵ちゃんにも選ぶ権利はあるよ」


 そんな同期の私を庇ってくれるような言葉も副島新はその場でバッサリと切り落とす。


「いや。俺の」


 そんな強気で自信満々な言葉にカッと顔が熱くなるのを感じた。確かに私にも選ぶ権利があるけど、それ以上に副島新の言葉が嬉しかったりする。嬉しいくせに素直になれない私は強がりが口に出る。



「私は誰のものでもないから」


 そんな可愛くない言葉がスルリと口から出てくる。可愛い言葉は中々出て来ないのに、こんな言葉は簡単に零れ落ちる。一瞬、時間が止まったかのようにその場の音を消したのだった。

「あ、なんかヤバいかも吐きそう」


そんな未知の言葉に敏感に反応したのは香也子で、未知を連れてトイレの方に歩いていく。さっきまで平気そうだったのに、こんなに簡単に体調が変わるものなのだろうか?


 
 居酒屋を出たのはそれからすぐの事だった。未知に初めての悪阻が襲ってきたらしく具合が悪くなり、香也子と一緒に急に帰宅。私も一緒に行くと言ったけど、爆弾発言をした副島新に気を使ったのか、『きちんと話してね』と耳打ちしてから帰っていくのだった。



 残されたのは同期の男三人と私。


 それなのに、同期の男の子は帰っていく女の子と一緒のことを言う。


「俺らも帰ろう。葵ちゃんは副島ときちんと話した方がいい。明日から仕事しにくいだろ」

 正にその通りだった。でも、何をどう話したらいいのだろう。結局、私は副島新と二人っきりにされてしまった。

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