幸せそうな顔をみせて【完】
 実際に今まで話をした担当の人は私と同じような年齢の男の人で、年齢が近いからか、話しやすい雰囲気だった。でも、この緑川さんと言う方は…。ニッコリと話を聞きながら、ピンポイントで説明を求めてくる。でも、その説明を求めてくるのが、うちの商品としての他社との違いでもあり、私が説明に力が入るところでもある。


 出来るだけ丁寧にそして、自社の商品を取り入れた場合の利点を並べる。そして、私は素直に競合他社に負けている部分も説明した。馬鹿なことをしているかもしれないけど、この人の前では誤魔化しは効かない。そんな思いが私の説明に真剣さを増させる。


 その競合他社に負けている部分を差し引いても余りある利点があると私は思っていた。


 たった、30分くらいの時間だったのに、マラソンでもしたかのような疲労感を感じる私の目の前で緑川さんはただ穏やかに微笑むだけ。これではいいのか悪いのかさえ分からない。自信のある商品だけど、それでもこれは対会社としての取引だからどうなるか分からない。


 ピリピリとした緊張感が私を包んでいた。


「丁寧な説明ありがとうございました。私は直接の担当ではないですが、商品に魅力も感じます。しかし、いくつか気になる部分もあるので、少し時間を貰いたいと思います」


 そんな言葉を聞きながら、『やっぱり』と思ってしまった。


 この人は即時に返事をくれる人でも、変に期待を抱かせる人でもない。そのくらいは私にも分かる。
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