幸せそうな顔をみせて【完】
 指定されたカフェは大通りから少し入った場所にあり、コーヒーが美味しいと有名な店だった。


 しかし人気はあるけど、少し離れている場所だからか、昼休みには人が少ない。昼休みは時間が限られているので、早く食事を提供できる店が人を集めている。そういう面ではこの店はお昼時のランチタイムは比較的空いている。


 でも、癒しと美味しいコーヒーを求めて夕方からは混みだす。そんな店だった。


『今日はちょっと入りたくないかも』


 そんな気持ちでドアを開けたのだった。


 店内はフレンチカントリー風の内装で、壁には漆喰が塗ってあり、淡いライトが店内の壁をしっとりと光らせる。アンティーク調を取り入れた優雅で女らしい店内は何度か来たことがあるけど、フワッとした優しさを感じさせるからか、ちょっと私には可愛いかもしれないと思いつつもそれでも、ドキドキしてしまう。


 テラコッタの床に白の足に木製の天板が乗せられたダイニングテーブルに優美なラインが可愛いチェアがいくつか並んでいて、カウンターの奥にはシャビーシックな棚が並んでいる。落ち着いた色合いと雰囲気がゆったりとした気持ちにさせてくれるのだった。


 でも、今日はこの店の優しい雰囲気を楽しみに来たわけではない。半分は尋問と言ってもいい会話が繰り広げられるだろう。


 店内を見回すと一番奥の席に未知と香哉子の姿を見つけた。溜め息を一つ零してから二人に近付くと私の姿を捕えた未知の目は好奇に満ち溢れる。

 
 尋問は避けられないと諦めた。


 
< 121 / 323 >

この作品をシェア

pagetop