幸せそうな顔をみせて【完】
「お疲れ様。前に葵が好きだと言っていたランチを頼んでいるけどいい?」


 この店は素早い食事提供には適してないけど、ランチメニューがないわけではない。もちろんあるけど、そんなに早くはテーブルに届かないというだけ。それを見越して、未知と香哉子は私の分も頼んでくれていたのだろう。サンドイッチがメインのランチプレートはサンドイッチの横にはジューシーなチキンも添えられているし、サラダもある。コーヒーもセットのこのランチプレートは少し値段は張るけど、それだけの味のクラリティは維持してあった。


「うん。私もそれを頼むつもりだったから」


 私が二人の前に座ると見計らったかのようにテーブルにランチプレートが届く。食後のコーヒーは今から落されるのだろう。


「美味しそう。じゃ、食べようか」


 そう言ったのは未知で、未知は自分の前に置かれたフォークでレタスを掬う。そして、ドレッシングも何もつけないまま口に運んだのだった。いつもならたっぷりとドレッシングも掛ける未知が生野菜を口に運ぶのに驚いた。テーブルの上には未知がいつも好んで使うドレッシングがあるのに手を伸ばす気配はない。


「未知。ドレッシングは?」


「塩分強いから。今は我慢」


 そんな未知の言葉で思い出したのが金曜日のこと。未知が結婚の報告と妊娠の報告をしたのだった。そして、つわりがあって…。私はその後の出来事が衝撃的ですっかりと忘れてしまっていた。
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