幸せそうな顔をみせて【完】
 バタバタと顔を洗い、『今日はナチュラルメイク』と自分に言い聞かせながら化粧をする。今日は外に出る用事はないから、意識的にアイラインを引く必要もない。そして、アイシャドウもマスカラも控えめになる。手抜きと言うよりもこれが今の私には最大限頑張った化粧だと思う。


 鏡の中の私の顔は少しいつもよりもぼやっとしているという雰囲気だけどそんなに悪くはない。そう自分に言い聞かせて、肩下まである髪は簡単にゴムで結び、その上に一番近くに置いていたシュシュを付けることにした。


 服は何も考えなくていい黒のスーツ。中に着るブラウスもクローゼットの一番前に置いてあるものを掴み、着ていたものをベッドの上に投げると、一気に着替えていく。我ながら女子力の低さを感じてしまうけど、脱ぎ捨てたままの部屋着は帰ってきてから片付けようと思った。


 バッグはそのままでハンカチだけを変え、靴も昨日のまま。玄関先の鏡に映った姿は妙に就職活動をしていた頃の自分を思い出させた。


『少しは成長しているのかしら?』


 黒のスーツを着るのは本当に久しぶりだった。いつもは普通の会社員の女の子が着るようなブラウスとスカートにジャケットという感じが多いけど、大事な商談の時はスーツを着る。でも、そのスーツも黒というのは中々なくて、グレーだったりベージュだったりと優しい感じの色合いのスーツを身に着けることが多い。


 だから、黒のスーツを着るのは久しぶりで、髪を一つに結び、黒のスーツを着た私は就活をしていた頃の自分に戻った気がしたのだった。

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