幸せそうな顔をみせて【完】
私の姿形の輪郭をなどるように尚之の視線が見つめていた。そして、視線が絡むと…穏やかに微笑む。その微笑みは少し大人びたとはいえ、好きだった微笑みには変わりなくて、心の奥がチクリと痛んだ。終った恋だと自分でも分かっているし、尚之も分かっているはず。それなのになんで会いに来たりするのだろう。
どのくらいの時間を待ったのだろうか?
「なんで?」
「葵に話したいことがあって。少しの時間でいいから」
「わかった」
今朝、会った時から私も尚之のことを考えていた。今更、恋心はないけど、それでもあの時、自然消滅してしまった恋は消化不良のまま私の中に残っている。どうしてあの時別れたのか聞いてみたかった。何を思い、何を感じ、そして、あのメールを打ったのか?
私と尚之が入ったのは駅の近くのカフェだった。仕事終わりのサラリーマンも居れば、女の子同士のグループが楽しそうに笑ったりもしている。ザワザワとしているけど、静かすぎる場所よりいい。ザワザワとしたカフェの中で私と尚之のテーブルだけが切り取られたかのように無音だった。運ばれてきたカプチーノの泡を見つめ、フッと息が零れた。
「あの時の俺は仕事が忙しくて、それ以外は何も見えてなかった。俺が親父の会社に入ったのは知っているよな。そんな中、親の七光りとか言われることが多くて、自分の力で実績を残すのが全てだった。葵とは勤務地も遠かったし、遠距離恋愛になってしまって、俺の中での優先順位が葵から仕事にシフトしていた」
どのくらいの時間を待ったのだろうか?
「なんで?」
「葵に話したいことがあって。少しの時間でいいから」
「わかった」
今朝、会った時から私も尚之のことを考えていた。今更、恋心はないけど、それでもあの時、自然消滅してしまった恋は消化不良のまま私の中に残っている。どうしてあの時別れたのか聞いてみたかった。何を思い、何を感じ、そして、あのメールを打ったのか?
私と尚之が入ったのは駅の近くのカフェだった。仕事終わりのサラリーマンも居れば、女の子同士のグループが楽しそうに笑ったりもしている。ザワザワとしているけど、静かすぎる場所よりいい。ザワザワとしたカフェの中で私と尚之のテーブルだけが切り取られたかのように無音だった。運ばれてきたカプチーノの泡を見つめ、フッと息が零れた。
「あの時の俺は仕事が忙しくて、それ以外は何も見えてなかった。俺が親父の会社に入ったのは知っているよな。そんな中、親の七光りとか言われることが多くて、自分の力で実績を残すのが全てだった。葵とは勤務地も遠かったし、遠距離恋愛になってしまって、俺の中での優先順位が葵から仕事にシフトしていた」