幸せそうな顔をみせて【完】
看板も見ずに入った薄暗いその店はゆったりとしたジャズの流れるバーだった。
薄暗い店内には淡いオレンジの光が優しく空間を包んでいて、経年した木製のカウンターの向こうには黒のスーツを着たこの店のマスターと思われる人が居た。店内には私以外には何人かの人は居るけど、それでも静かにこの空間でお酒を飲むことを楽しんでいるように見える。一人で飲んでいる人もいれば、恋人同士みたいな二人も居れば、仕事の帰りだと思われるサラリーマン風の人もいる。
でも、ドアを開けて入ってきた私に視線を向けた人は居ない。自分の時間を楽しむ人が集まるような店なのかもしれない。
「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ」
マスターは微笑み掛けると、カウンターの一番端であまりオレンジ色の光が当たらない場所に私を案内する。薄暗い店内であっても場所によっては明るく人の表情が見えてしまう。そんな中、案内された席は端というのもあって泣いて化粧も崩れた私でも目立つことはない。優しい気遣いだと思う。
「何にしましょうか?」
「ビールで」
「畏まりました」
カウンターには白いコースターが置かれ、しばらくして、琥珀色とその琥珀色を際立たせるような真っ白な泡がギリギリまで注がれたビールが目の前に置かれる。スラリとしたグラスがこの店の雰囲気に合っている。そっとグラスを手に取ると、キンキンに冷えたグラスの白くなった部分に指跡を残しながら私はビールを口に含んだのだった。
薄暗い店内には淡いオレンジの光が優しく空間を包んでいて、経年した木製のカウンターの向こうには黒のスーツを着たこの店のマスターと思われる人が居た。店内には私以外には何人かの人は居るけど、それでも静かにこの空間でお酒を飲むことを楽しんでいるように見える。一人で飲んでいる人もいれば、恋人同士みたいな二人も居れば、仕事の帰りだと思われるサラリーマン風の人もいる。
でも、ドアを開けて入ってきた私に視線を向けた人は居ない。自分の時間を楽しむ人が集まるような店なのかもしれない。
「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ」
マスターは微笑み掛けると、カウンターの一番端であまりオレンジ色の光が当たらない場所に私を案内する。薄暗い店内であっても場所によっては明るく人の表情が見えてしまう。そんな中、案内された席は端というのもあって泣いて化粧も崩れた私でも目立つことはない。優しい気遣いだと思う。
「何にしましょうか?」
「ビールで」
「畏まりました」
カウンターには白いコースターが置かれ、しばらくして、琥珀色とその琥珀色を際立たせるような真っ白な泡がギリギリまで注がれたビールが目の前に置かれる。スラリとしたグラスがこの店の雰囲気に合っている。そっとグラスを手に取ると、キンキンに冷えたグラスの白くなった部分に指跡を残しながら私はビールを口に含んだのだった。