幸せそうな顔をみせて【完】
『はい。この度はお電話ありがとうございます。どのようなご用件でしょうか』


 尚之も馬鹿ではない。私の状況を察知したのだろう。友達モードから仕事モードに瞬時に切り替えた。線を引けるのは尚之のいいところだと思う。公私混同はしないのが瀬能尚之という男。私が元カノであってもそれは関係なくスパッと綺麗に線を引くのだった。


『御社の新製品の話を聞き、一度、詳しい説明を聞きたいと思い連絡をさせて貰いました。大学の同級生と言う立場でのいきなりの連絡申し訳ありません』


『いえ、こちらこそありがとうございます。新製品は私どもの社でも自信を持った商品ですので、上司と一緒にご挨拶にお伺いしようと思いますがいかがでしょうか?』


 取引先で優劣を付けるわけではないけど、瀬能商事は私だけの手には余る。これは一度、小林主任に話を通してから動いた方がいいと思った。


『わかりました。では、明日の午前中はいかがでしょう。上司の方と一緒に社の方に来て貰えれば助かります』


『畏まりました。では、上司と相談の上、後程また連絡いたします』


『よろしくお願いします。で、今日の夜になら少し時間がある。俺に用事があるんだろ。なんだ?』


 仕事の話が終わったら急に友達モードに戻る尚之に苦笑しそうになる。昨日のメールはバッサリと切り落としたのに、今日は思い出したかのようにそんなことを言う。


『この間の飲み代とタクシー代』
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