幸せそうな顔をみせて【完】
会社のビルを出ると、身体に纏わりつくような湿度が私を覆う。梅雨明けとはいえまだ幾分かの湿度が漂っている。雨が降っていたのは少し前なのに、長く続いた雨の名残はまだ消えていない。でも、この太陽の眩さはそろそろ訪れる夏の太陽を思わせる。
今年の夏はどんな夏になるのだろう。出来れば暑くてもいいから、カラッと晴れわたって欲しい。鬱屈した空気も気持ちも一気に吹き飛ばしてくれたらと思う。
そんなことを考えながら私は駅に向かう。約束の時間にはまだ十分な余裕があった。
「前に比べるとわが社のメリットが大きくなっています。そちらはこれでいいのですか?」
前と同じ応接室に通された私は提案書を出して、緑川さんに説明を始めた。緑川さんの凛とした雰囲気は女らしさの中に強さと真摯さを秘めている。そして、資料を見る視線は鋭かった。お渡しした提案書と資料を見せながらのプレゼンは内容に自信があるとはいえ、緊張してしまう。
もちろん契約をするからには何か不手際があってはいけない。そんな思いで必死に説明する私に緑川さんはニッコリと穏やかに微笑んだのだった。その表情だけではよかったのか悪かったのか分からない。表情に自分の感情を全く乗せない人のようだった。
ゆっくりと資料を見つめる姿を私は固唾を飲んで見つめていた。時間にしてどのくらいだろう。私の中では長時間に感じるのに、実際に時計の針はさほど動いてない。
「悪くないです。でも、今日の契約は見送ります」
今年の夏はどんな夏になるのだろう。出来れば暑くてもいいから、カラッと晴れわたって欲しい。鬱屈した空気も気持ちも一気に吹き飛ばしてくれたらと思う。
そんなことを考えながら私は駅に向かう。約束の時間にはまだ十分な余裕があった。
「前に比べるとわが社のメリットが大きくなっています。そちらはこれでいいのですか?」
前と同じ応接室に通された私は提案書を出して、緑川さんに説明を始めた。緑川さんの凛とした雰囲気は女らしさの中に強さと真摯さを秘めている。そして、資料を見る視線は鋭かった。お渡しした提案書と資料を見せながらのプレゼンは内容に自信があるとはいえ、緊張してしまう。
もちろん契約をするからには何か不手際があってはいけない。そんな思いで必死に説明する私に緑川さんはニッコリと穏やかに微笑んだのだった。その表情だけではよかったのか悪かったのか分からない。表情に自分の感情を全く乗せない人のようだった。
ゆっくりと資料を見つめる姿を私は固唾を飲んで見つめていた。時間にしてどのくらいだろう。私の中では長時間に感じるのに、実際に時計の針はさほど動いてない。
「悪くないです。でも、今日の契約は見送ります」