幸せそうな顔をみせて【完】
 いつになく強気の言葉を口にしたのはやっぱり小林主任の口癖が頭の中に響いたから。私もこの提案書に書かれている内容はとっても魅力あるものだと思う。価格が合わないとなると、この契約は難しくなるのは分かっているけど妥協出来ないと思った。契約をしたいとは思うけど妥協とか安売りをする気にはならない。


「わかりました。この金額では私の裁量での決済が出来ません。でも、とてもいい商品だと思うので、上司に決済を頼もうとは思います」


 小林主任の手直しの入った提案書は強気だった。でも、もしかしたら、最初から上司に決済をさせるために作ったののかもしれない。際どいラインを綺麗に切り取ったような提案書はまだ、緑川さんの手の中にあり、パラパラと捲りながらも内容の確認をしているようだ。


「ありがとうございます」


「それはこの商品がとても魅力的だと思うからです。でも、上司決済になると、確実に契約できるとは限りません。出来れば私は取引をしたいのですが、返事が出来るのは来週になるかもしれません」


「はい、お待ちしています」


 そういうと私は立ち上がり、ゆっくりと頭を下げたのだった。会釈して応接室を出ると、私はフッと肩の力が抜けた。何時もよりも際どい駆け引きをしたから疲れが倍増している。それでも自分なりに頑張ったというのがとっても嬉しい。


 しかし、価格交渉の裏にこんな思いが隠されているとは思わなかった。


 
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