幸せそうな顔をみせて【完】
13 抱き寄せる強さ
 駅前のカフェは待ち合わせの人がたくさんで私はどこの席に座ろうかと店内を見回す。この時期のオープンカフェは暑くて出来れば避けたいと思う。でも、残念なことに店内に空いている席はない。尚之が先に来て私を待っているというのもなくて、外のオープンカフェで待つか、または別の店に移動するしかなかった。


 私が選んだのは後者。別の店に行くことだった。待ち合わせの店よりも駅からは少し離れるけど、その分、席に座れる可能性は強い。お金を返すだけだからそんなに時間が掛かるわけではないけど、尚之も仕事を終わらせてくるのだから、待つのはある程度覚悟している。


『駅前のカフェは多いから、駅から少し歩いた場所にある店に移動する』


 そんなメールを残して私は駅前のカフェを後にしたのだった。


 駅から少し歩いた場所にあるカフェは駅から離れているからか、さっきのカフェよりも幾分人は疎らでどうにか座ることが出来た。目の前にはアイスカフェラテが置いてあり、プラスチックのカップには水滴が少しついている。その水滴は次第にテーブルを濡らしていく。そして、私は尚之にメールをすると、フッと息を吐いた。


 夕方のカフェは人の出入りが慌ただしく、落ち着かないはずなのに妙に私は落ち着いていた。こんな風に何もすることのない時間はやっぱり副島新のことを考えさせられる。大好きなアイスカフェラテの味もしない。




「悪い。待たせた」


 そんな言葉と共に尚之が私の前に座ったのは私がこの店に入って30分くらい過ぎた頃だった。
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