幸せそうな顔をみせて【完】
「何言ってるの?きちんと食べているわよ」


「ラテさえも殆ど飲めないくせに」


 目の前に置かれているアイスカフェラテは一口だけ飲んだけど、それ以上は飲めなくて、待っている間に透明のプラスチックのコップの上には溶けた氷で水で出来た層を作っている。熱い中飲み干すはずのラテが殆ど手つかずの状態だった。でも、それに尚之が気付くとは思わなかった。


 まだ、目の前に座って10分くらいしか過ぎてない。それなのに、何もかも見透かされているような気がする。居心地が悪いというのはこのことだと思う。黙り込む私に尚之はさっきよりも優しい声を響かせた。


「別に怒ってないけど、心配はする。俺の行きつけの小料理屋の雑炊が美味しい。それを食いに行ってから、葵のマンションまで送ってやる。だから、今日は何も言わずに俺についてこい」


「雑炊?」


「ああ。俺が二日酔いとかで何も食えない時によく行く。あんまり綺麗な店じゃないけど、味は絶品だし、野菜も入っているから栄養価も高い。今の葵にはいいと思う。色々考えることもあると思うけど、とりあえず健康な身体になってから考えないと悪い方向にばかり考えてしまうだろ」


 今の私は尚之の言うとおり、副島新のことを考える度に悪い方向に考えてしまう。でも、尚之と一緒に食事というのはどうしても気が進まない。いくら今は何とも思ってないとはいえ、尚之は元カレ。


「でも」


「ここから近いし、な、俺を安心させると思って一緒に行こう」
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