幸せそうな顔をみせて【完】
「離して。私、今とっても好きな人がいるの。その人のことで頭の中は一杯になってる。もしも、その人が他の人を好きになっても私は自分の気持ちに折り合いをつけることは出来ないの。簡単には出来ない」
私の瞳から零れた涙の粒は静かに頬を伝い、尚之のシャツに吸い込まれていく。優しいし、この腕の中はとっても温かい。でも、この腕は私が今、一番欲しいものではない。私は両手に力を込め、尚之の腕から逃れようとした。でも、抗えば抗うほど、尚之の腕の力が強くなる。
「離して」
そう言っても腕の力が緩む気配はない。それどころか離さないとでも言うかのように力が籠っていく。
「無理。葵が泣いているのに離せない。今、分かった。俺、まだ、葵のことが好きだ。もう終わった恋だと思っていた。再会した時も大学の友達に会ったような気がしていた。でも、今、こんな風に泣いている葵を見るとどうにかしてやりたくなる。俺が幸せにしてやりたいと思う」
「私には好きな人がいるの」
「分かっている。別に、俺はそれでも構わない。葵が笑ってくれるならそれでいい。別に俺のことを思ってくれとも言わない。でも、泣くくらいなら俺が葵を奪う」
「私には好きな人がいるの」
「うん。分かっている。せめて今日は泣きやむまで傍にいる。それくらいいいだろ」
尚之の力強い腕の中で私はずっと涙を流していた。優しくされると我慢していたものが決壊する。頑張ろうと思っていたのも決壊する。
私が泣き止んだのはかなりの時間が経ってからだった。
私の瞳から零れた涙の粒は静かに頬を伝い、尚之のシャツに吸い込まれていく。優しいし、この腕の中はとっても温かい。でも、この腕は私が今、一番欲しいものではない。私は両手に力を込め、尚之の腕から逃れようとした。でも、抗えば抗うほど、尚之の腕の力が強くなる。
「離して」
そう言っても腕の力が緩む気配はない。それどころか離さないとでも言うかのように力が籠っていく。
「無理。葵が泣いているのに離せない。今、分かった。俺、まだ、葵のことが好きだ。もう終わった恋だと思っていた。再会した時も大学の友達に会ったような気がしていた。でも、今、こんな風に泣いている葵を見るとどうにかしてやりたくなる。俺が幸せにしてやりたいと思う」
「私には好きな人がいるの」
「分かっている。別に、俺はそれでも構わない。葵が笑ってくれるならそれでいい。別に俺のことを思ってくれとも言わない。でも、泣くくらいなら俺が葵を奪う」
「私には好きな人がいるの」
「うん。分かっている。せめて今日は泣きやむまで傍にいる。それくらいいいだろ」
尚之の力強い腕の中で私はずっと涙を流していた。優しくされると我慢していたものが決壊する。頑張ろうと思っていたのも決壊する。
私が泣き止んだのはかなりの時間が経ってからだった。