幸せそうな顔をみせて【完】
 資料室は営業室から離れたところにある。どちらかというと総務課や経理課に近い。普段なら多くの社員がいるけど、今は昼を過ぎた時間だからか人気は殆どない。少しヒンヤリとした雰囲気の資料室にいるのは私だけだった。


 私が探すのは一番新しく作られた資料。瀬能商事に行った時に尚之に渡してしまったから、これから見積もりをするために必要だった。頭に残る知識だけでは数値に自信がない。パソコンのデータベースと資料を照らし合わせて、一ヶ月後の本契約に繋げる。


 それに月曜日に瀬能商事に商品を納めるための準備をしないといけない。やらなければならないことはたくさんあるのに、頭にあるのはさっきの副島新だった。


 好きだから、傍に居たいから、私は全てを飲み込むつもりなのに、当の副島新は全くいつもの通りにしている。私が副島新と志摩子さんのことを、知らないから、いつもの通りに接するのは当たり前。だけど、それが苦しい。


「なんで俺から逃げるの」


 私の後ろから聞こえてきた声は副島新で、その声は低く擦れてる。怒りを押し殺すようなその声に私の身体はビクッと揺れてしまった。まさか、資料室まで副島新が来るとは思わなかった。


 自分の気持ちを押し殺すように、唇を噛んでから口角を上げる。笑っているように見えるはず、揺れる心は見せたくない。


「別に逃げてないわよ。急ぎの仕事があるからバタバタはしてる。瀬能商事に月曜日に納品するの」
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