幸せそうな顔をみせて【完】
 三人掛けのソファは思ったよりも柔らかく身体を包み込むようだった。その優しさがいきなりのお姫様抱っこでコチコチに固まった私の身体をゆっくりと解いてくれる。確かに副島新の言うとおり、床に直に座ると身体は冷えるかもしれないけど、この時期はさほど心配する必要もない。


 緊張と副島新からの攻撃で身体は火照っていたから、正直、床の冷たさは気持ち良かったりする。でも、副島新は私を女の子として扱ってくれる。そんな優しさも嬉しかったりする。


 こんな風に心が揺れるのも本当に私が副島新が好きだから。いつからこんなに好きだったのだろう?そんなことを考えていると居酒屋からの帰り道の副島新の言葉がちょっとだけ気になった。あの時はその後のプロポーズがあまりにも衝撃過ぎてその前の言葉は簡単に霞んでしまったけど、思い返してみたらあの言葉もかなりの衝撃を与える。


『お前。俺のこと好きなのにいつまで経っても言って来ないから痺れを切らしただけ』


 確かに私は副島新に好意を持っていた。でも、それは恋愛としてではなく、最初は人間としてだったと思う。なのにいつしか私は恋心を抱き、異性としての副島新を意識していた。でも、自分でも分からないくらいの淡い思いだったのに、それを気付いていたのだろうか?


「ねえ。いつから私の気持ちに気付いていた?」


「教えない」


 そう言うと、副島新は三本目のビールに手を伸ばしたのだった。
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