幸せそうな顔をみせて【完】
 ゆっくりとした微睡みの中、目蓋を開けるとそこには副島新の綺麗な顔がある。私の記憶はシャワーを浴びて、食事をして。副島新がシャワーを浴びてくるからということで、副島新のベッドにちょっとだけ寝転ぼうと思ったところで止まっている。天井を見上げ…それからどうしたのだろう?


 今の状況から見ると私は寝てしまったのだろう。眠りに落ちるちょっと前に副島新の声を聞いたような気もするけど、思い出せない。私の身体を優しく抱きしめるように逞しい腕が私を包んでいて、普段は感じないけど、しなやかな筋肉が男の部分を感じさせる。私とは明らかに違う腕に抱かれていると、心臓はドキドキと煩く音を立て嬉しくて堪らない。


 私は副島新が好き。その気持ちは変わらない。志摩子さんのことをもしかしたら副島新の好きな人なのかもと思った時に感じた痛みは想像以上で、今は勘違いと分かっているけど、それでも食事が出来なくなるくらいになるとは思わなかった。


 裏を返せば私がそれだけ副島新を好きだということだった。


「葵」


 名前を呼ばれて身体を少しずらすと逃がさないかのように腕に力が籠る。でも、副島新の目蓋が開くことはなく…。心地よさそうな呼吸が私の耳に届いてくる。そして、私を呼んだのが寝言だと分かると自分の顔が緩むのを感じずにはいられなかった。副島新はどんな夢をみているのだろう?


 どんな夢か分からないけど、そこには私がいる。それは間違いない。

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