幸せそうな顔をみせて【完】
「やっぱりいい。今、葵が俺の腕の中にいるだけでいい。でも、これだけは覚えといて。俺は葵が思う以上にお前のことを好きだ。やっと俺のモノになったんだから絶対に離さない」


 力強い言葉に力強い視線。そして、その全てが私を惹きつける。これは恋。誰にも渡せない恋だから私は今こんなにも嬉しい。好きな人に好かれるという幸せを今私は感じていた。


「私も好き。だから、離さないで。もしかしたら別れないといけないと思ったら凄く辛かった」


「俺は理由がわからなかったけど、徐々に葵の顔から笑顔が消えていくのが辛かった」



 辛いのは私だけではなかった。


 私が志摩子さんとの関係で苦しく思っていた時間。副島新は私を見ているのが辛かったのだという、シーツに縫い止められている手首に絡む副島新の手の力が緩むと、私の身体をギュッと抱き寄せた。何度も抱き寄せて貰った。そして、何度もキスをして…。


 抱かれるのは自然なことだった。


 ワンピースも下着も脱ぎ捨てた私は何も身に着けないままで、副島新の胸に抱かれる。さっきのシャツ越しの温もりよりももっと熱い。焦げそうなほどの熱に触れながら一緒に身体が燃えそうだった。肌に落とされる唇も、しなやかな指の動きにも翻弄され…。


 私は身体をしならせながら弧を描き、副島新に落ちていく。額に掛かる髪が汗で張り付きながらも夢中で抱き合う私に思考力は無く。そこにあるのはただ、溶けてしまいそうな身体だけ。
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