幸せそうな顔をみせて【完】
 小林主任は今日一緒に同行してくれる研究員のことをよく知っているのか『頭脳明晰で生真面目なイケメン』だよと笑いながら言う。イケメンはともかく頭脳明晰な生真面目というのが気になる。それに『なかなか表に出ない』とか言うから緊張もしてしまう。本当にどんな人なんだろう。


 そんな表に出ないような人が態々今回の取引に同行する意味はやはり瀬能商事との取引を確実にするため。それも緊張の種になる。私なんかでいいのだろうか?


「小林主任。私、大丈夫でしょうか?」


「大丈夫。厳しいけどいい奴だよ。中垣は」


「中垣さんっていう方なんですか?」


「そうだよ。中垣主任研究員。静岡研究所で新規商品開発の責任者をしている人で、東京にいる時に知りあって、俺がここに来てからはたまに一緒に飲んでる。と言っても、研究しか頭にない男だから、たまにしか会わないけど」


「お友達なんですか?」


「友達ではないけど、ある意味同志かな」



 小林主任とその中垣さんとの間がどんな関係かは分からないけど、小林主任が信頼をしているというだけは分かる。柔らかい雰囲気の小林主任の友達ならきっと優しい人のはず。


「そうなんですね」


「ああ。それに今回、中垣に依頼したのは瀬戸さんにこれからも頑張って欲しいと思っているからだよ。今の瀬戸さんの担当は既存先ばかりの営業だけど、来期からはもっと新規開拓を見込んだ仕事をして貰おうと思っている。しっかりと勉強して欲しい」






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