幸せそうな顔をみせて【完】
「飲み過ぎじゃない?」


 私の言葉に副島新は眉間に皺を寄せる。三人掛けのソファの真ん中に座る私の横に座ったと思ったら、テーブルに手を伸ばすと缶ビールを取り、またプルタブに指を掛けたのだった。そして、少し無理やり気味にビールを流し込む。


 どう考えても飲み過ぎだろう。


「葵のこと好き過ぎて困る。名実ともに俺のものにしたいけど、初めてが酔った状態というのは嫌だ。でも、あまりに葵が無防備だから理性がこれ以上ないくらいに擦り切れそうだ。だから、もう少し飲む」


 それこそ副島新の無防備な言葉に今度は私が真っ赤になって、動揺する番だった。これって、酔ってなかったら『抱く』と宣言したのも一緒だった。


「私はどうしたらいいの?」


「これは俺の問題だから、葵は気にする必要ない。俺が傍に居て欲しくて連れてきたのに自分で傍に居ると理性が崩れそうになっているだけ。これは葵が全く関知しないところだろ。でも、これからどうしようかと悩むのも事実だ」


 頭脳明晰で瞬時に判断するという能力にたけている副島新から『悩む』という言葉を聞くと私の方がまた動揺する。この状態から打破するのは至難の業だと思った。


 どうにかしないと思って頭に浮かんだのは私がいつも使う最上級の解決方法だった。多分、これ以上の解決策はないだろう。


「とりあえず今日は寝よう。寝てからこれからのことは明日考えよう。お互いに落ち着くと思う」



「確かにそうだな。葵は俺のベッドで寝てくれ。俺はソファに寝る」

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