幸せそうな顔をみせて【完】
 貰った喉飴をスーツのポケットに忍ばせると私は荷物を持って小林主任の後についていく。そして、ロビーに行くと窓側の方に置いてある応接セットに一人の男の人がいた。眼鏡を掛けたその人は一瞬、私の足を止まらせるほどの雰囲気を漂わす。まるでいきなり凍ったかのように足が動かなくなった。


 怖い……それが第一印象。


「待たせたな」


 そう小林主任が言うから、その人が研究所の中垣主任研究員。私が思っていたイメージとは正反対の人だった。小林主任の陽だまりのような雰囲気だとすると、中垣主任の寒風吹き荒ぶような雰囲気。一切の妥協を許さない感じで、小林主任が言った言葉にもただ、『ああ』と応えただけだった。


 不機嫌さを隠そうともしない。確かに顔を見れば端正な顔をしているし、もう少し笑えばもっと魅力的だと思うのにそれさえも必要ないとばかりに不機嫌な顔をしている。『生真面目なイケメン』というのはあながち間違いでもない。


 細身の身体にはダークブルーのスーツが似合っているのに着慣れないのかしきりにネクタイを緩めようとする。そんな姿に小林主任がニッコリと笑う。


「今日は白衣じゃだめですから」


「それくらい分かっている。でも、俺が出向くほどの企業なのか?」


「そうです。中垣さんに来て貰うだけの価値のある取引先です。それに今回は支社から直接研究所に依頼しているから逃がさないので」


「俺以外でもいいだろ。研究員はいくらでもいる」


「ダメです。中垣さんの知識が必要なんです」


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