幸せそうな顔をみせて【完】
 小林主任は端正な顔にガッチリとした体躯。昔、何かのスポーツをしていたのか背も高く逞しい。包容力のある優しさは営業部でも人気の上司。中垣主任研究員は小林主任とは違った意味での綺麗な顔をしている。細身の身体にさっきまでは綺麗にセットしていた髪も今は無造作に掻き乱している。姿とか格好とかどうでもいいみたいで、身なりに構うタイプではないみたいだ。


 その証拠にネクタイは既に外され、後部座席に投げ捨てられている。


 でも、そんな二人に対して私はあまりにも凡庸。出来れば私も定食屋の方がいい。


「私も定食屋がいいです」


「よかった。本当にごめんね」


 小林主任は私が遠慮して定食屋を選んだと思っているみたいだけどそうではない。少しでも美味しくものを食べるためにはそれが一番いい選択だと思う。


「そんなことないです。本当に定食屋が好きですから」


 小林主任の運転で連れて行って貰ったのは見るからに定食屋という場所だった。中に入るとそこにはサラリーマンの人が多くて女の人は殆どいない。だから、ホッとした。普通なら男の人ばかりのところで食事をするなんて思いもつかないけど、この三人で女の子の集まるカフェなんかには行けない。


「何にする?俺は日替わり」


 そう言ったのは小林主任で、その横で中垣主任研究員は『俺も同じ』という。私はというと、特に食べたいものの無いので、同じ日替わり定食を頼むことにしたのだった。
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