幸せそうな顔をみせて【完】
 静かな食事になるかと思っていたけど、そうではなく仕事の話をしながらの食事になった。中垣主任研究員という人はさっきの説明でも分かったけど、研究職という仕事に全てを掛けている人らしく、話している内容は新製品の開発のことばかりだった。


 自分から話す人ではないようだけど、小林主任が上手く会話を引き出している。私ははいうと会話を振られれば答えるけど、二人の話を聞いている方がよかった。緊張するというのもあるけど、二人の話がとても面白かった。仕事の話しかしてないのにこんなに面白いのは二人が一流の営業と一流の研究員だからだろう。立場は違うけどプライドを持って仕事をしてるのが分かる。


 そんな中、中垣主任研究員がボソッと呟くように言った。


「そういえば、小林の所の一人が本社営業一課に行くらしいな。もう、内々に辞令が下りたんだろ。あそこは厳しいから大丈夫なのか?」


「その発表はまだ先なんで」


 小林主任と中垣主任研究員の話は今日瀬能商事に納品した商品のことから、次第に人事のことに移っていた。主任クラスでは一般の社員よりも先に人事が知らされる。でも、一般に発表されるまでは言ってはならないことになっている。


「何言ってんだよ。お前としても嬉しいだろ。古巣に自分の育てた部下を送り込むんだから。名前は知らないけど新規企画のプロジェクトリーダーをしている奴なんだろ」


 え?それって…。もしかしたら??
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