幸せそうな顔をみせて【完】
「嫌というか…緊張して寝られそうもない」


「いや、俺の知る瀬戸葵ならグーグー寝れる」


 そのグーグー寝れるというのは副島新が私のことを何も分かってないということだった。これでも女の子の端くれ。好きな男の人と一緒にベッドに寝て、緊張で寝られないというのが分からないのだろうか?



「私がそんなにグーグー寝るなら、副島センセイはどうなのよ。そっちこそ、私は横に寝たって平気そうじゃない」


「名前で呼べ」

「名前って?」


「俺の名前知らないのか?」

「副島新」


「苗字はいらない」


「新?」


「そう。彼氏に向かって『副島センセイ』はないだろ」


 センセイってみんなが呼び愛称みたいになっているから私もそう呼んでいたけど、言われてみると確かに彼に対しての呼び方ではない。


 副島新の言っている方が当たっている気がする。でも、いきなり呼び捨てはハードルが高い。でも、初めて名前で呼ぼうと意気込む。意気込んでも中々言葉が出なくて…。酸欠状態の金魚の如く、口をパクパクしてしまいそうになる私がいた。


「あっあっあ…新」

「上出来」


 半分呼吸を忘れそうになりながら名前を呼ぶとニッコリと綺麗な微笑みを私に向けてくる。さっきの不機嫌さが名前を呼ばれたくらいで一気に払拭できるなんて思いもしなかった。すると、副島新は急に立ち上がるとスッと歩き出した。


「シーツ替えてくる」

「え?」

「さすがにシーツくらいは替えないと」


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