幸せそうな顔をみせて【完】
「ああ」


 そういうと、静かに目蓋が持ち上がり、私の顔をしっかりと見つめてくる。私と副島新との距離はちょっとで、少しでも動けば身体が触れそうだった。でも、この少しの距離が私を平静にさせているのかもしれない。あまりにも長く同期でいて、私は自分の気持ちを気取られないようにしていた。


 それなのに今は、私の気持ちを分かって欲しいとさえ思う。でも、なんて言ったらいいのか分からなくて…。そっと見上げると、副島新の形のいい唇は微かに開いた。暗がりなのに目が慣れてくると次第に表情まで見えてくる。


「葵。好きだ」


「酔ってるの?」


 甘い声だった。聞いているだけで心の奥底から蕩けそうな甘い声にキュンとなる。なのに、それを誤魔化したくて言葉を零す私はなんて可愛くないのだろう。一度伏せた瞳をそっと持ち上げると副島新の綺麗な顔がまた私の目に飛び込んでくる。


 好きなのは私も一緒なのに、なんでこの状態でも言えないのだろう?


『私も好きよ。ずっと好きだった』


 これが素直になれない私が言えない心の言葉だった。


 副島新はニッコリと笑うと、そっと手を伸ばし、私の身体を抱き寄せた。そして、私の背中をそっと撫でると、また、甘く優しい声を響かせる。そんな声にドキッとしながらも温かい副島新の身体に抱き寄せられていると泣きたくなるくらいに幸せだった。


「いや。ただ、言いたかっただけ。明日、起きたら一度、葵のマンションに行ってから何か食べに行こうな」



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