幸せそうな顔をみせて【完】
 私が急いで自分の部屋に帰ってきたのはそれから15分後のことだった。


 私の住んでいるマンションまで歩いて10分ほどの距離があるので、借りていた副島新の服から自分の服に着替えると、すぐさま私は副島新の部屋を後にしたのだった。副島新は送ってくれると言ったけど、10分くらいの距離だからと丁重にお断りをしたのだった。


「一時間後に迎えに行く。それ以上は待てないからな。葵も腹が減ってるだろ」


 そんな副島新の言葉に私は頷いていた。


 久しぶりに汗を掻くほどに早足で歩き、自分の部屋に入るとホッとすると同時に焦る気持ちも浮かぶ。初夏の雨上がりの部屋はムッとした空気がドアを開けたと同時に押し寄せてくる。外も暑くはなっていたけど、密封されたマンションのワンルームというのも結構厳しいものがあった。


「蒸し暑い」


 私は持っていたバッグをベッドの上に置くと、そのまま、テーブルの上に置いてあるリモコンに手を伸ばす。とりあえず冷房を効かせようと思った。先に窓を開けて空気の入れ替えといきたかったけど、今からシャワーを浴びるから、空気の入れ替えはそれからするしかないと思った。


「とりあえずシャワーを浴びて、着替えて、約束の時間よりも先に副島センセイに連絡」


 急いでいるからか、これからしていく順番を言葉にしてしまう私がいる。どう考えても大急ぎでしないと間に合わない気がした。

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