幸せそうな顔をみせて【完】
 シャワーを浴びようとバスルームに向かう私はふと自分の部屋を振り返った。昨日出て行ったままの自分の部屋は副島新の部屋に比べると幾分か雑然としていて、一瞬、片付けたい衝動に駆られたけど、それはグッと押し殺しバスルームに向かう。


 とにかく時間がない。


 バタバタと服を脱ぐと一気にバスルームに雪崩れ込む。そして、頭からいつもよりも熱めのお湯を浴びたのだった。頭から浴びながら自分の顔を撫でるといつもよりもごわついて気がする。


 昨日、副島新のバスルームで着替えた時に、簡単に顔を洗っていただけなので荒れている。そんな状態なのにそれに、寝起きすっぴんの顔を見られたのも厳しい。今まで何度も素の私を見せてきたけど、すっぴんの状態で顔を見せたのは初めてだった。考えるだけで顔が熱くなる。


「ちょっとでも綺麗になりたいな」


 そう思いながら、副島新の綺麗な顔を思い出し溜め息を零す。綺麗すぎる顔は何を使っているのか分からないけど、嫉妬してしまうほど肌まで綺麗だった。


 化粧は苦手なのであまり念入りに化粧はしないけど、それでも初めてのデートだから少しは綺麗にしたいと思う。横に並んで恥ずかしくないくらいにと思う恋心がここにはある。


 残された時間は余りにも短い。シャワーを浴びて着替えをしてから出掛けるとなるとかなりの時間が掛かる。一時間後に迎えに来てくれるというから、その時間ギリギリまでが私に残された時間だった。

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