幸せそうな顔をみせて【完】
「ああ。どこがいいか分からなかったから、前に園田と田川と一緒に行きたいと言っていた店を覚えていたからここにした。名前は○○○。確か、何種類かの野菜を使った野菜の盛り合わせが食べたかったんだろ」


 確かにちょっと前の同期の飲み会で情報雑誌の一面のグラビアに綺麗に盛り付けをされた野菜メインの一皿が載っていた。それを見て、豪華だけどヘルシーだから、これなら十分に楽しめるねって話した。


 でも、それは話の流れの一コマであって、そんなに重要な話でもなかった。すぐに話題は別のことになったし、私も行きたいと思ったけど、未知とも香也子とも時間が合わないから流れ流れになっていた。それなのにまさか副島新が覚えているとは思わなかった。そして、私が自分のマンションに帰って着替えている間にレストランの予約までするとは思わなかった。


「なんか驚いた。そんなの覚えてたの?」


「俺は記憶力がいい。さ、行くぞ」


「うん」


 副島新の記憶力の良さは知っているけど、まさか仕事や勉強以外でその力が発揮されるとは思わなかった。でも、本当に来てみたかった店だから、少しずつテンションが上がるのを感じた。車を降りて、副島新の後ろをついて歩いていると、急に副島新は立ち止まったかと思うと、私の右手を副島新の左手がキュッと握る。


「嫌か?」


「ううん」


 手を繋いだまま、ゆっくりと通路を抜け、ホテルのレストランに繋がっていると思われるエレベーターに行くと副島新は私の方を見て、ニッコリと笑った。


「俺もスマホで見たけど、野菜は美味そうだったから楽しみだ」


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