幸せそうな顔をみせて【完】
 一瞬、副島新の言葉を聞き違えてかと思った。私の心に浮かぶのは『どうしよう』ということ。そんな思いで副島新を見つめると、平然とした顔のまま私に向かってニッコリと笑う。その微笑みは綺麗すぎて、表情に感情は読み取れない。


 でも、ここはホテルのレストラン。


 窓から見える景色は澄み切った青と眼下に見える、観覧車。そして、ずっと下の方に見える人はとっても小さくにしか見えない。最高級の空間演出のために、ピカピカの床には大理石。テーブルはどう見ても高級そうだし、窓から差し込む柔らかな光がキラキラとカトラリーを照らしている。並べられたグラスも磨きに曇りは全くない。


 そんなウキウキ状態の私に襲ってきたのは現実?


 最高級で初デートの場所にしては十分過ぎる場所。飲酒。昨日の夜。『抱きたい』とも言われ、プロポーズらしきこともされていて『真剣交際』のはず。そんなフローチャートの先に考えてしまうのは『お泊り』であって、その先にあるのは……。


 どうしよう。それが本音だった。


 出会って二年も一緒の職場で働いてきたから、お互いのこともよく分かっているし、昨日の夜に告白されて付き合いだして、既に昨日は副島新のマンションにも泊まっている。なら…今日は。何があってもおかしくない。むしろ、その流れが妥当ともいえる。でも、なんでこのタイミングでこんなことを言うんだろう。


「スパークリングワイン好きなの?」


「ああ。軽く一本は一人でも飲める。飲んでもいいか?ここのレストランの料理は美味しそうだし、ワインと一緒なら楽しめると思う」

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