幸せそうな顔をみせて【完】
 確かに副島新の言うとおりだと思う。


 このレストランのランチコースは野菜がふんだんに使われていて女の子の人気のあるコース。それだけでなく新鮮な魚介も使っているからスパークリングワインに合う。実際に辺りを見回すと既にワイングラスを傾けている人もいるから、副島新がスパークリングワインを飲みたいと思っても可笑しくない。


 でも、今日は車で来ている。今飲むと飲酒運転になってしまうので、車はどうするのだろう?


 昨日の夜から副島新の暴走および迷走は続いているらしい。


 そんなことを考えていると、テーブルに店員さんが来て、ニッコリと笑ったのだった。


「お飲み物は何になさいますか?」

「オレンジジュースとペリエ」


 そうサラッと副島新は言ったのだった。


 ペリエ?ペリエって炭酸水で、普通の炭酸水だからもちろんアルコールなんか入ってない。吃驚して見上げると、さっきと同じ平然とした顔をしている。さっきのスパークリングワインの話は何だったの?私の思考回路も誤作動しているのだろうか?何が何だか分からない。


「畏まりました。ではお持ちします」


 そう言って恭しくお辞儀をして行ってしまった店員さんの後姿を見てから、副島新の顔を見るとまだ平然とした顔をしている。そして、今度は料理のメニューを手に持ち、ゆっくりと視線を動かすのだった。私の視線に気付いているはずなのに、副島新は私の方に視線を向ける気配はなかった。
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