幸せそうな顔をみせて【完】
「そんなに見ると穴が開く」


 確かにもし私の視線で穴が開けられるとするならば、副島新の顔も身体も大小の穴で埋め尽くされているかもしれない。そのくらいに私は副島新の中にどんな考えがあるのかを知りたかった。でも、副島新の方は全くいつもと変わらないまま。
 

「だって、スパークリングワインって言っていたのに、いきなりペリエだなんて」


「葵は俺がスパークリングワインの方が良かったか?」

「え?」


 スパークリングワインの方が良かったか?と問われると少し迷う。正直なところ、美味しいものをより美味しくさせるために多少のアルコールがいいのは知ってる。魚介に白のスパークリングワインの取り合わせは垂涎ものの組み合わせ。そんなことは分かっているけど、私が気になるのはそっちではなくて…。


 この後どうなるかってこと。


「別に今日は土曜日だから俺のマンションに帰らず、ここに泊まってもいいよな。最上階の部屋を取ってはやれないけど、それなりの高層階の部屋を葵の為に取ってやれるから、一緒に夜景を眺めるのも悪くない」


 最上階も高層階もどうでもいい。その前に泊まるという言葉の前に聞き流しそうになった言葉を聞いたのだった。俺のマンションに帰らずって今日も私は自分のマンションに帰れないの?でも、一緒に居たいと思う気持ちもあるから…。私はどうしたらいいのだろう。好きという気持ちは余りにも簡単に言葉一つで揺れる。揺れるのは私の副島新のことを好きだという気持ちが思ったよりも深いからだと思う。


「あの…私」

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