幸せそうな顔をみせて【完】
 自分の気持ちを言葉にするというのはなんでこんなに難しいのだろう。始まったばかりの私の恋は長いこと同じ会社で働く同僚であったからか、その切り替えがまだ出来てない。今までの積み重ねてきた関係がある分、私は突然に始まった恋に戸惑っていた。


 子どもじゃないんだからもっと器用に恋を出来ればいいのに思うけど、これが私なのだとも思う。


「嫌いじゃない」


「なら、いいだろ。葵が俺の買った指輪を付けてくれるだけで安心する」


「安心?」


 その後の話を聞こうとして顔を上げると、副島新は店頭でこんな話をすべきじゃないと思ったのか少し店から離れた場所に私を連れて行くと、フッと息を吐いた。そして、私を見つめると、真剣な瞳を見せていた。


「葵は俺のことを好きだと思っていた。でも、いきなり他の男とお見合いとかしただろ。だから、俺のプレゼントした指輪を付けて欲しいと思った。ネックレスとかブレスレットとかでもいいけど、指輪が一番効果ある。別に左手の薬指に付けて欲しいとは言わないけど、それでもずっとつけていて欲しいとは思う」


 まさかそんな理由とは思わなかった。いつもは自信満々なくせに、昨日の『お見合い発言』をそんなに気にしているとは思わなかった。


「今の説明で行くとファッションリングってこと?」


「エンゲージが良かったらそれでもいいけど、それはさすがに葵の重荷になるだろ。俺はエンゲージでもマリッジでもいいけど、葵の気持ちが一番だし、それを無視してまで自分の気持ちを推し進めるつもりもない」


< 74 / 323 >

この作品をシェア

pagetop