幸せそうな顔をみせて【完】
 そして私が話し出すタイミングを見計らったかのようにテーブルの上に置きっぱなしになっていた携帯が震えたのだった。そして、画面に浮かぶのはお見合いの相手の『井浦さん』の名前だった。タイミングよく震えたから、同期の視線を一気に集める。


 タイミングが良すぎて…。なんというかタイミングが悪い。結婚のお祝いという名の飲み会に最後にネタを提供した形になってしまう?そして懸念は現実になる。


「ね、井浦さんって誰?」


 流してくれたらいいのに、未知の視線は鋭く画面の名前を捉えていた。普通の状態なら見なかったことにしてくれるのに、酔いが回った状態だからか、画面の名前を流してくれることなく聞いてくる。口籠る私に香也子が急にニッコリと笑った。


「もしかしたらお見合いの相手だったりして」


「……」


「ねえ、なんてなんて?」


『葵さんこんばんは。先日はとても楽しい時間をありがとう。実は今日、素敵な和食のお店を教えて貰いました。よかったら一緒にどうですか?』


 これ以上自分のことを曝け出したくなくて流していたのに、メールがきて、それも、個人的に食事のお誘いということは…お見合いが続行しているということであって…。それにしても丁寧なあの人らしいメールだなって思った。


 三歳年上の彼は私よりも遥かに大人だった。

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