ご懐妊は突然に【番外編】
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「おめでとうございます。妊娠3ヶ月です」

眼鏡をかけた女医さんが無表情のまま結果を告げる。

なんか、おめでとう感が全然伝わってこない。

「はあ。そうですか」

私も胃潰瘍を告げられたようなリアクションである。

「で、産みますよね?」

「まあ、産みますね」

私、小森遥(26)は母になる。


魂が口から抜け出たまま、私はフラフラした足取りで産婦人科を後にした。

下腹の辺りをさすってみる。

ここに私と匠さんの赤ちゃんがいるんだ。

何だか嬉しいようなくすぐったいような不思議な感覚。

思わずニヤニヤと口元が緩んできてしまう。



「遅かったじゃないか」

家に着くとお腹の子どもたちの父親となる婚約者、葛城匠(28)が、居間でテレビを見ながら不満気にボヤく。

フワフワした気分から、一気に現実に引き戻された。

私達はまだ結婚していない。

赤ちゃんが出来た言ったら匠さん驚くよね、やっぱり。

私はすごく嬉しかったけど。

「ごめんね。急いで夕飯の支度しちゃうから」

私がエプロンを付けようとすると、「いいよ、今日は」と言って止められた。

「大事な話しがあるから」

不機嫌そうに切り出したところをみると、よい話しではなさそうだ。

「あの、私も話しがあります」

「何だよ、遥まで」匠さんは面倒臭そうに眉を顰めた。

そのリアクションに私は少々ムッとする。

「…後でいい」

そうしてくれ、と匠さんにあしらわれてしまった。

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