ご懐妊は突然に【番外編】
「自分の足で人生を歩もうとしてる。だから匠さんも影ながら見守ってあげましょうよ」

私は匠さんのアーモンドアイをじっと見つめた。

匠さんは暫し沈黙したのち、肩で大きく息を付く。

そして「わかった…」と一言、ボソリと呟いた。

それから仏頂面で再びご飯をモソモソ食べ始める。

無言のままご飯を食べ終えると「ご馳走さま」と言って、そそくさとお風呂へいってしまった。


翌朝

スーツに着替えた匠さんを玄関までお見送りに行く。

昨日から不機嫌で必要最低限の話ししかしていない。

いってらっしゃい、と言って鞄を渡す。

それを受け取ると匠さんは玄関のドアに手を掛けた…が、出て行かずにこちらへくるりと振り向く。

胸ポケットから茶色い皮の財布をゴソゴソ取り出すと、一枚カードを抜き出した。

「これ」と言ってカードを一枚差し出した。

どうやらクレジットカードのようだ。しかもブラック。

「もう家族カードは持ってるからいらないよ」

私が受け取りを拒むと「違う」と一言呟いた。

「燁子に渡しておいてくれ。困った事があったら使うように」

私はきょとんとして言われるがまま、カードを受け取った。

「それと、たまにはうちに顔を出すように伝えてくれ」

匠さんの意外なセリフに一瞬我が耳を疑う。

「って、事で納得した?」

私の顔色をチラリと伺う。

「惚れ直したわ、貴方」

私は匠さんにピョンと飛びついた。

「それは良かったよ、奥さん」

私は背伸びをしていってらっしゃいのキスをする。

滅多にしないので匠さんはまんざらでもなさそうだ。

私の腰に手を回して引き寄せるとそのまま深く口付けた。


この日、匠さんはなかなか私を離そうとせずに遅刻しそうになったのは言うまでもない。
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