ご懐妊は突然に【番外編】
「双子ちゃんは産まれそうかしら?!」

午後三時を回った頃、ゴージャスなマダムが病室へ飛び込んで来た。

匠さんのお姉さま、晴子さんだ。

「まだまだよー。此れからが正念場ねえ」

お義母さんは呑気な口調で答えた。さすが四人の子どもを産んだだけあり、余裕である。

「初産だから結構時間がかかるのかしらねえ」

既に2人のお子さんがいらっしゃる晴子さんも腹が座っている。

「匠は?」晴子さんが尋ねる。

「何度か電話してるんだけど繋がらないのよねえ」お義母さんは小さくため息をついた。

「まあ、あいつがいたところで役にもたないでしょー」

相変わらず、晴子さんは弟に手厳しい。

「そうそう、遥さんの好きな千疋屋のゼリー買って来たわよー」

「…ありがとうございます」

身体を起こすことが出来ず、うずくまったまま晴子さんにお礼する。

「まあ、今はそれどころじゃないっか。冷やしとくから、産んだ後にゆっくり食べてねー」

晴子さんは備え付けの冷蔵庫にゼリーの入った箱をしまう。

「遥さんのお母様にもお土産を買って来ました」

晴子さんは包装された箱をママに差し出す。

「あらあ!釣鐘屋の最中じゃない」ママはキラリと目を光らせた。

「お好きだと伺ったので」

さすが、政治家の嫁。こんな時でも心配りを忘れない。

「じゃあ、お茶でも淹れましょうか」ママは病院のポットでお湯を沸かしてお茶を入れる。

私を除く三人は最中を食べながらお茶を飲みお喋りに興じる。

お義理程度で交代に私の腰をさすってくれたはいたけど。

いつの間にか病室は、婦人会の集会場と化していた。

…この人たち、何しに来たんだろう。

私は一人うずくまりながら襲い来る陣痛に耐え忍んだのだった。
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