暫定彼氏〜本気にさせないで〜
「スイマセン……やっぱり、怒ってますよね?」


空になったジョッキグラスを勢い良くテーブルに置いた途端、弱々しげに聞いてくる加藤陽日。


その目はまるで子犬じゃないの。


くぅ〜んという儚げな鳴き声が聞こえてきそうだ。


「えっ?怒ってる?私が?」


落ち着け私。


ここは一つ、大人の女として対応をせねば。


「いいえ、怒ってないけど。」


嘘、怒りまくってるけど大人女子はそんな事、微塵にも出さないわよ。


「いや、怒って当然ですよ。俺から誘っといてかなり待たせちゃったし。実は会社を出ようとしたら丁度、部長につかまっちゃって……日影部長に。」


「ああ販促の部長ね。」


「そうです、話が長いで有名なあの、日影部長……ピカゲ部長です。」


日影部長とは販売促進部の部長でつまりは彼の直属の上司だ。


悪い人では無さそうだけど、兎に角、話が長い。


総務にも割りと来る事があるんだけど、この前も途中から全く関係のない話題になって、最後には知りたくもない将棋のルールやらうんちくを聞くはめになった。


ちなみに二歩(にふ)はダメらしい……。


て言うか将棋とかやんないし。







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