暫定彼氏〜本気にさせないで〜
ここの所、夜もめっきり冷え込むから、陽日の体はとても冷たかった。


「ねぇ、随分と待ってたんじゃない?体が冷たいよ。」


「バレたかぁ。情けないよね。俺、あれから冷静になって考えたら沙紀さんに酷い事したなって。」


「そんなこと……」


「ううん、最低だよ俺。だから沙紀さんにちゃんと謝ろうって。そう思うのに会社で見かけても上手く声掛けられなくて。きっと沙紀さんに呆れられてこのまま振られるんじゃないかって思ったら不安になって……気付いたらここに向かってたんだ。」


抱きしめられているから顔は見る事が出来ないけど、声のトーンでその不安さが伝わってくる。


きっと、遊園地の時と同じ顔をしているんだと思う。


そんな陽日の不安な思いを少しでも安心させたくて志賀との事を伝えた。


「この前ね、志賀に話したんだ。陽日とちゃんと向き合いたいんだって。だから志賀の気持ちには応えられないって伝えてきたよ。」


私を抱きしめる陽日の手の力がほんの少し強くなる。


「沙紀さん……本当に俺で良いの?」


いつになく弱気な陽日。


「そうだよ。陽日が良いんだよ。だから陽日の事をもっともっと知りたいの……。」


「沙紀さん……。」


抱きしめていた手を緩めるとその手はそのまま私の両頬に添えられた。


「キス……していい?」


子供が親に叱られないか伺っているような顔で聞いてくるのがおかしい。


「ダメって言ってもするんでしょ?」


「まぁねーーー」


三度目のキスは冷えた体に反してとても熱のこもった激しいものだった。





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