暫定彼氏〜本気にさせないで〜
「……ぅんっ……」
息が出来ないくらいの長い長いキスの後、唇は漸く開放された。
ふうっと一息付くと陽日が言った。
「沙紀さん………俺、沙紀さんに話さなきゃないけない事があるんだ。」
「なんの話?」
「ごめん……今はまだ言えない。だけどきっとちゃんと全部話すから。俺の事、信じて?」
陽日の真剣な顔を見れば分かる。
嘘を言ってる顔じゃないって。
きっと陽日なりに自分の事を話そうとしてくれているんだと思う。
だからーーーー
信じて見ようと思う。
彼と向き合うって決めたんだもん。
陽日の全てを知りたい……。
陽日をちゃんと好きになりたい。
「うん、分かった。話してくれるの信じて待ってる。」
「ありがとう。」
そういうと陽日はもう一度私を強く抱きしめた。
ひとしきり抱き合った後、名残惜しげに私の体を離すと陽日が言った。
「沙紀さんが部屋に入るまで見届けてるから、行って?ほら。」
そう言われても、なんだかこのまま別れてしまうのが寂しい気もする。
けれど明日も仕事だしね。
「うん、ありがと。じゃーーーおやすみなさい。」
そう言って背を向けたのに腕をぐいっと引っ張られ、瞬く間に彼の胸に飛び込む形になった。
「ごめん……ちょっと名残惜しくて。」
陽日も同じ思いだった事に嬉しくて顔が綻ぶ。
「キリがないよね。」
抱きしめていたのはほんの一瞬で陽日は直ぐにまた私を離した。
「今度、またご飯食べにおいでよ。」
さよならの代わりにご飯に誘うと
「今度は唐揚げが食べたいな。」
飛び切りの笑顔で陽日が言った。
こんなのよくある風景なのに。
なんて事ない、別れ際なのに。
何だか永遠の別れみたいに名残惜しく感じたのは偶然じゃなかったんだなって……
これからの私達を暗示していたのかもしれない。
ただ、この時の私はまだ知る由もなかったんだ。