暫定彼氏〜本気にさせないで〜
「社長の手前、昼間はあのように言いましたが実はーーー以前よりあなたの事が気になっていました。もしかしたらその事を社長は薄々感づいていたかもしれません。」


「以前から?」


「ええ、あれはまだ僕が社長の秘書として付くようになり、間もない頃です。ある時、社長が僕に仰ったんです。」


「伯父さんが?」


「どうやら姪が入社したらしいと。それであなたの事を知ったんです。」


「そうでしたか……。伯父には全く内緒でしたし、うちの両親にすらも入社試験受けた後で報告したんです。多分伯父には入社が決定してから母がこっそり話したんだと思います。」
 

「そうでしたか。聞いた時は驚きました。てっきり縁故入社だと思っておりましたので……いや、失礼な事を言いました。」


「失礼な事だなんて、その通りですよ。確かに就職難で苦労してましたし、最後の砦に取っておいた会社ですから。あっ、勿論、好きな会社だからと言うのは大前提ですよ。」


「もちろんです。それはあなたを見ていると分かります。仕事に向き合うあなたは自分の立場に甘んじること無く、常に努力されていた。どんなに小さな仕事でもきちんと丁寧に取り組んでいていつだって一生懸命だった。」


樋山さん……ちゃんと見てくれてたんだ。


いつも無表情だから分かりづらいけど、特別視せずに見てもらえるのって嬉しいな。


いつからか私は祖父が一生懸命に築きあげたこの会社に私なりに何か貢献できることは無いかと思っていた。


大好きなおじいちゃん。


ちょっと昔気質で頑固な所もあるけれど、人との繋がりをとても大切にしている。


その事を私は小さい頃からずっと教わっていた。


人との出会いには必ず意味があるんだよって。


だからどんな出会いでも大切にしなきゃいけないよって。















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