暫定彼氏〜本気にさせないで〜
珍しく家に来て食事でもしないかという祖父の誘いに、断ってもきっと迎えの車を寄越しそうなので行く事にした。


ここ最近、会社では滅多に会う事はない。


祖父も正式に引退した訳ではないけれど、殆どの業務の権限を今ではほぼ伯父に任せている。


なのであまり会う機会がなくなってきた。


子供の頃は母に連れられ、よく祖父の家に行ったけれど、祖父の会社で務めるようになってからはあまり行かなくなった。


自分なりのケジメみたいなものだ。


祖父は私が入社した事を伝えた時、本当に喜んでくれた。


祖父の会社に少しでも貢献したいって言ったら、泣きながら握手されたことを今でも覚えている。


そのおじいちゃんの会社が今、狙われているのか………。


今、考えるのやめよ。


ご飯作る前で良かった。


おばあちゃんの手料理なんて久しぶりだもんなぁ。


急いで来るようにと言われたからタクシーで向かった。


久しぶりに見る祖父の家は相変わらず立派だった。


立派な門構えにいつ来ても圧倒されそうになるなぁ。


インターホンを押すと昔からいるお手伝いさんが「お待ちかねですよ」とにこやかに出迎えてくれた。


よく手入れされた庭を進み玄関に入ると祖父が待っていた。


「沙紀、よく来たな。」


そこには会長でもなんでもない、私の大好きなおじいちゃんがいた。


立派な廊下を進むと奥の座敷に案内される。


「おじいちゃん、なんで客間に?」


てっきりおばあちゃんが料理をしているであろうキッチンに向かうと思っていたのに。


おじいちゃんに続いて客間へと入る。


「飯の前にお前に聞いておきたい事がある。」


庭の鹿威しがポンっとなった。














< 141 / 229 >

この作品をシェア

pagetop