暫定彼氏〜本気にさせないで〜
沙紀さんへの俺の思いが確実に変わったのは初めて二人で遊園地に行った時の事。


つい昔の事を思い出し、少しナーバスになった俺に対してあの人は


まるで母親の様に優しく抱き寄せた。


そして俺が小さな頃からずっと欲しかった言葉をあの人はくれたんだ。


ーーー寂しかったんだね。よく頑張ったね。


俺自身の中で何かがジワッと溶けていくのが分かった。


今まで誰一人そんな事を言ってくれる女なんて居なかった。


みんな俺の外見だけで近付いてきても誰一人本当の俺を見てくれる奴なんて居なかった。


俺よりも小さな体の沙紀さんに背中をトントンとされている内に


ずっと心の奥に引っ掛かっていた物がすっと軽くなるのが分かった。


俺の中で沙紀さんの存在が確かなものに変わった瞬間だった。


本気にはならないって決めていたのに。


目的さえ果たせればいいって思っていたのに。














その一瞬で俺は墜ちてしまった。


本気で好きにならならいって思ってた相手に先を望めない恋をしてしまったんだ。












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