暫定彼氏〜本気にさせないで〜
ーーー沙紀さん、ここにいたの?
やっとの事で言った。
上手く笑えているだろうか。
頭の中はそればかり考えていた。
さっきの話の中で沙紀さんは確かに俺を選んでくれた。
藤枝さんよりもこの俺を。
なのにーーー
気持ちは不安なままだ。
もしかしたら藤枝さんに断る為にただ、俺を理由にしただけかもしれない。
もしかしたら、後でやっぱり気が変わって藤枝さんの元へ行くかもしれない。
人が聞くと呆れてしまうくらい、バカバカしい事ばかりが俺の頭の中にあった。
だけど、沙紀さんが俺にくれた言葉はーーーー
どれも違っていた。
言葉ではなく俺の唇に沙紀さんのそれを重ねた。
一瞬、時が止まった気がした。
いや、止まってしまえば良いのにとさえ思った。
ずっとこのままがいいと願った。
照れて逃げようとする沙紀さんを引き寄せ、自分の膝の上に座らせる。
温泉に入ったんだろう。
沙紀さんの首元から微かに石鹸の良い匂いがした。
俺は抑えられない気持ちをそのまま唇に乗せて伝えた。
沙紀さんの口から甘い溜息が漏れる……。
俺はすかさず、ほのかに石鹸の香りがする首筋に唇を這わせ、どうかこの人が俺だけのものになりますようにと赤い印を付けた。
結局、調子に乗るなといつものように叱られたけど、俺は嬉しくて仕方なかった。
沙紀さんとの距離が漸く縮まったかなと
そう思えたのに………